美しい地球づくり

中華民國有機產業促進協會監事 月足吉伸

はじめに

  私たちの家庭をとりまく社会の状況をみたとき、そこには、連日のマスコミ報道でも明らかなように、病んでいる日本社会の姿が浮かび上がってきます。

  多くの識者は、戦後の日本の歩みの中にその病巣があると指摘していますが、MOAインターナショナルの創始者・岡田茂吉氏( 1882 ~ 1955 )も、戦後間もない昭和 20 年代に、社会の諸問題の原因を指摘する数々の論評を残しています。

  岡田氏は、幼少の頃からさまざまな病苦にさいなまれるとともに、事業の失敗、妻子との死別等々、数多くの苦しみを経験しました。

  そして、苦悩の根本原因や人間としての真の生き方を探求し続けた岡田氏は、苦悩を根本から解消し人々を真の幸福に導くための本質を見いだし、その哲学と具体的実践のあり方を明らかにしました。MOAは、そのような岡田氏の哲学に基づき、健康で豊かで争いのない、物と心が調和し、また東西文明が融合した新しい文明世界の建設をめざして、さまざまな文化事業を展開しています。

. 食生活を支える「農」の取り組み

① 気になる食品の安全性

  今日の日本には、グルメ時代に相応しく、世界の食が集まり、さまざまな国の料理を楽しむことができます。このような国際色豊かな食は、私たちの生活も豊かにしてくれます。しかし、普段口にする食材はどのように作られているのかということも気になるところです。実際に輸入農産物の残留農薬の問題や原産地の偽装表示、さらにはBSE(狂牛病)の問題など、「安心、安全」を求める消費者の信頼を失う出来事が起きています。私たちが食べている多くの食品は海外から輸入されています。こうした輸入された食品は本当に安心できるものなのでしょうか。

② 農業が抱えるさまざまな問題

  一方、日本の農業もさまざまな問題をかかえています。農業人口の減少や後継者問題、食糧自給率の低下など、課題も少なくありません。戦後日本では、農産物を工業製品のように扱い、コストを下げて規格をそろえることに懸命に取り組んできました。しかし、コストの安い輸入農産物に市場を奪われ、食料の増産と生産性の向上を第一に考えてきた農業も大きな節目を迎えているのではないでしょうか。農産物もモノのように扱われ、人の口に入って「いのち」の糧となるという意識も薄れているのかもしれません。農林水産省も、それまでの農業政策が充分なものではなかったことを踏まえて、「人と自然が共生する美の国づくり」を提唱、環境と調和した、健全な心身を育む食料の生産を政策に掲げて、美しい国づくりを進めようとしています。

③「地産地消」「身土不二」の大切さ

  今、「スローフード」や「地産地消」が話題になっています。それは、日本でも昔から言われてきた「身土不二」の考え方に通じるものです。つまり私たちの体は、その土地で採れた食べ物を食べることで、その土地の気候風土に合った健康な体ができるということでしょう。岡田氏も「その土地に生産された物をなるべく食うようにし、季節もそうだがその土地に多く生産されるものは多く食うようにし、中くらいは中くらい、少ない物は少なく食うようにすればいいので、これが自然である」と、「地産地消」や「身土不二」の考え方の大切さについて述べています。

④ 伝統食を見直し、子どもたちにも伝えたい

  地方に残る日本型食生活を見直そう、郷土料理を食卓に取り入れて子どもたちに伝えていこう、そんな取り組みも始まってきました。こうした伝統食の見直しは、うずもれている地方の文化を大事にする営みにもつながっています。人々の暮らしや健康を支えてきた地方文化、地産地消によって培われてきた伝統食を生かした食生活を大事にしたいと願っています。だからこそ、食文化を支える農業もしっかりと見つめていきたいと考えています。伝統食を取っていれば、より良く生きるための基である、心も体も安定して、心身共に活性化すると思っています。先祖代々から受け継いできた食のスタイルを、日本人ももう一度見直すべき時にきていると思います。それが健康を守り、人生を楽しく意義深いものにしてくれる基本だと思っています。

⑤ 自然順応を理念とするMOA自然農法

   岡田氏は自らが創成、提唱した自然農法について、次のように述べています。「自然栽培の根本理念はあくまで自然尊重であって、それは自然がよく教えている。およそ世界にある森羅万象あらゆるものの生成化育を見れば分かるごとく、大自然の力、すなわち太陽、月球、地球というように火水土の三元素によらぬものは一つもない。もちろん作物といえどもそうであるから、日当たりをよくし、水分を豊富にし、土をより清くすることによって、作物は人間の必要以上余るほど生産されるものである。」このような岡田氏の理念を受けて、MOAは、自然を尊重し、自然に順応した農業をMOA自然農法と称し、その普及に取り組んでいます。MOA自然農法は、NPO法人MOA自然農法文化事業団が主体となって活動を進めているもので、MOA自然農法ガイドラインに基づく認定制度を備えた、昭和 10 年から 70 年の歴史ある農法です。

  当団体は、静岡県伊豆の国市にある大仁農場を中央研究農場として、北海道・名寄、沖縄・大宜味にも研究農場を設置し、自然の営みにのっとった栽培技術の確立に取り組んでいます。今、慣行農法では化学肥料や農薬の使い過ぎによる土壌汚染や連作障害が問題になっています。MOA自然農法ガイドラインには、化学肥料や農薬といった自然生態系に還元できない資材は使わず、認定された堆肥を活用することがうたわれています。それは、土が本来もつ生育力を高めるため、そして清浄な土壌環境を守るためです。

⑥ 環境を守り資源を有効活用する農業

  21 世紀は、環境を守り、自然資源を有効に活用することが大きな課題です。私たちは、MOA自然農法は大気や土壌、水を汚染しない環境保全型農業であり、貴重な自然資源を有効に活用する物質循環型農業であるととらえています。また、それは前述の農水省が提唱する「人と自然が共生する美の国づくり」にも通じる農業であると考えています。

⑦ 人のことを考え生命力に満ちた作物を栽培

  MOA自然農法は、全国各地の心ある農家によって取り組まれています。実施農家は、消費者や有識者とともにMOA自然農法普及会を組織して、おいしくて生命力に満ちた作物の栽培に真心を込めています。見えざる自然の力を感じ、「生きている土」を大切に見つめ、人々の健康を考えたMOA自然農法は、農家の生きがいともなっています。

⑧ 自然食の流通を担うMOA販売会社

  MOA自然農法によって生産されたお米や野菜、くだものは、流通を担うMOA販売会社を通じて食卓に届けられます。消費者のニーズに応えるだけの生産が追いつかない現状もありますが、こうして届けられた農産物は、より良い食生活を求める人たちの欠かせない食材となっています。また、MOA自然農法の農産物などを原料にした加工食品も製造し、販売しています。

⑨ 生産者と消費者が顔の見える関係を築く

  MOAでは、生産者と消費者を結ぶ活動の一つとして、農場見学会などの催しを行っています。そこでは、土や作物にじかに触れることができ、MOA自然農法の価値をありのままに体感できます。農家と顔の見える関係が築かれ、信頼できる食べ物であることを確かめ合っています。また、園児や小学生などを対象とした草取りや稲刈り、芋掘りなど農場体験を行っています。こうした体験を通して、農作業の大変さや収穫の喜びを味わい、自然の恵みや、生産者への感謝が培われています。こうした取り組みは「食育」にもつながるのではないでしょうか。

⑩ 新しい農業を生み出す

  MOAは農家が安心して農業に取り組み、消費者や流通に携わる人たちが健康で生きがいを持ち、喜びと感謝で結ばれる社会を実現したいと願い、国の基となる新しい農業を生み出そうとしています。

2.理想的モデル農場(大仁農場)

① 自然豊かな伊豆にある「大仁瑞泉郷」

  日々の忙しさに追われ、自分を見失ってしまったとき、自然環境の中でのんびりと過ごすことができれば、心も癒され健康も回復していくことでしょう。それにぴったりの場所が、熱海に隣接する伊豆の国市にある「大仁瑞泉郷」です。約 27 万5千坪の敷地を持つ大仁瑞泉郷は、四方を遠い山々に囲まれ、南側に天城連峰を望む自然豊かな「癒ししのゾーン」です。

  大仁瑞泉郷は、岡田氏が昭和 24 年に発表した「瑞泉郷構想」に基づくもので、MOA自然農法の「大仁農場」と「大仁牧場」、四季折々の花が咲き誇る洋風や和風の庭園と花苑、地中深くから湧きでる温泉、そして前述の「奥熱海療院」があります。大仁瑞泉郷では、春には「花まつり」、秋には「健康と秋の収穫まつり」が開催され、地域住民のみならず全国からの来場者でにぎわいます。

② 幅広い健康増進プログラムの提供やMOAスクール

  ここでは、岡田式浄化療法、いけばなや茶の湯、陶芸などの芸術療法、自然農法産の食材を中心とした岡田式食事法のほかに、園芸療法、運動療法、温泉療法、森林の散策や自然体験など、豊かな自然を生かした幅広い健康増進プログラムを提供しています。近隣の小中学校の児童や生徒、保育園児らも訪れ、ガーデニングや収穫体験で土に触れたり、自然散策やネーチャーゲームを通して自然に親しんでいます。また、「酪農教育ファーム」の認定を受けている大仁牧場で、子牛やうさぎなどの動物と遊ぶこともできます。さらに、社団法人日本青少年育成協会と連携して「MOAスクール」を開校し、引きこもりや不登校などの問題にも取り組んでいます。

③ 大仁農場と自然農法大学校

  大仁農場では、MOA自然農法の研究を行うとともに、栽培の実際を直接見ていただくことに力を入れており、全国の自然農法実施農家をはじめ、農業や行政、教育などの関係者や自然食愛好家らが見学に訪れます。

  また、NPO法人MOA自然農法文化事業団、財団法人微生物応用技術研究所、世界永続農業協会が、ここを中心に自然農法の研究や国内外への普及を推進しています。さらに、農業後継者を育成する「自然農法大学校」も設置され、2年間の本科コースのほかに、1年間の専攻科コースや短期の研修生を国内外から受け入れています。

④ 滞在しながら健康増進できるMOA研修センター

  大仁瑞泉郷には、滞在しながら健康増進プログラムに参加する人たちを受け入れる「MOA研修センター」もあります。ここは、約 120 名を収容できる宿泊室、ロビー、研修室、温泉浴室、食堂はもちろん、浄化療法の施術室、体育館、プールなども完備されています。

⑤ 大仁をモデルに各地に瑞泉郷を建設

  大仁瑞泉郷より規模は小さくとも、同じようにMOAの健康法に触れることができる場として、MOAは国内各地に瑞泉郷の建設を進めています。それぞれ自然農法の農園と花苑を備え、地域社会の人々の「癒しのゾーン」として、気軽に健康増進に取り組めるように整備が進められています。また、このような瑞泉郷を国内だけでなく、北中南米ではアメリカのカリフォルニアとハワイ、さらにはメキシコ、アルゼンチン、ペルー、ブラジルに、アジアではタイ、台湾に、ヨーロッパではポルトガルに、アフリカではコンゴに建設しています。MOAは、健康で豊かで争いのない「美しき家庭」をつくるために、今後も、国内はもとより世界各地に瑞泉郷を建設してまいります。

以上

•  参考文献

はじめよう未来をひらく「家庭」づくり-MOAの提案する「美しき家庭」-

平成 18 1 1 日 発行 MOAインターナショナル